田中祐真 「ウクライナ応援団」という揶揄をあえて書名に入れた理由 【著者に聞く】

――伝統的な食料品から高水準の手工業品、さらに先進国と遜色ないレベルの電子機器やITサービスまで、幅広いジャンルのウクライナ製品を集めたガイドブックです。
ウクライナというと農業国のイメージが強いのですが、旧ソ連時代には重工業生産の一翼を担っていました。またキエフ大公国時代から商業が栄え、職人文化もある国です。そうした歴史的な「ものづくり」の蓄積に加え、ソ連崩壊後に独立を果たしてからはスタートアップ(新興企業)が増え、現在は欧州有数のIT先進国でもあります。
本書はそんなウクライナの多種多様な製品の中から、私自身が見て「これは欲しい!」と思えるかを基準として、145種類の製品やブランドを選びました。もちろん、英語校正サービス「Grammarly」やサバイバルホラーゲーム「S.T.A.L.K.E.R.」シリーズなど、世界的にヒットした有名どころはできるかぎり押さえたつもりです。
――ウクライナ製品の特徴と、個人的なおすすめを教えてください。
やはりスタートアップとして一人で始めたような若いメーカーが多いので、個人の美的センスや世界観がよく反映された、意欲的で面白いデザインのものが多いですね。特にソ連製の軍用真空管を再利用した「Nixoid LAB」の近未来レトロ時計は、初めて見たとき衝撃を受けたほどで、唯一無二の格好良さがあります。日本でも展開しているカラフルな靴下「Dodo Socks」をはじめ、衣料品も質が高い。また、執筆過程で知ったのですが、女性用ランジェリーもさまざまなブランドがあり、国際的に評価されています。
――ご自身とウクライナとの関わりは。
もともと東京外国語大学でロシア語を専攻しており、3年生のとき1年間ロシアに留学したのですが、年末年始に旅したウクライナの印象が非常に良かった。大学の卒論および大学院の修士課程にかけてはウクライナ西部の国境地帯などで話されているルシン語という少数言語を研究し、その後は在カザフスタン日本大使館の専門調査員などを経て、2021年12月に念願の在ウクライナ日本大使館専門調査員採用試験の合格通知を受けました。
しかし翌年2月にウクライナへのロシアの全面侵攻が始まったことで赴任が叶わず、やむなく在ポーランド日本大使館からリモートで仕事をする形になりました。この先どうするか悩んでいた折、東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠先生からお誘いをいただき、同センターで1年間、特任研究員を務めました。現在は国際協力機構(JICA)でウクライナ支援に携わっています。
――シリーズ名「ウクライナ応援団」は、ウクライナ支援に批判的な立場の日本人が揶揄や嘲笑の意図で使用するネットスラングですが、なぜこれを。
これは編集を担当したパブリブ代表の濱崎誉史朗(よしろう)さんのアイデアです。私も最初は「この名前だと手放しでウクライナを応援しているように受け取られませんか」と戸惑ったのですが、濱崎さんから「それをあえて逆手に取り、応援して何が悪い、という態度でいいのでは」と説かれて、納得しました。
この本の狙いとして、真の応援へ、という思いがあります。全面侵攻開始から3年以上が経ち、そろそろ「支援のために買い支える」という一方的な関係は継続が難しくなっている。これからも応援を続けるためには「欲しいから買う」、つまりウクライナ・日本の双方が得をする関係に移行する必要があります。そしてウクライナには魅力的な製品が数多くあるので、ぜひそれを知ってもらいたかったのです。
今後は逆にウクライナから得られるもの、取り入れるべき知見がたくさん出てくるフェーズになると思います。たとえばIT技術の行政への導入などでは、日本よりはるかに進んでいる国ですので。あと重要なのは軍事や安全保障、認知戦といった領域でのノウハウですね。現代の戦時下でどうすれば国民生活を維持し、経済を回せるのか。ウクライナから日本が学べるものは、非常に多いと思います。
(『中央公論』2025年6月号より)
1991年岐阜県生まれ。国際協力機構(JICA)中東・欧州部ウクライナ支援室員。東京大学大学院人文社会系研究科欧米系文化研究専攻修士課程修了。専門はスラヴ語学、旧ソ連諸国地域研究。東京大学先端科学技術研究センター特任研究員などを経て現職。